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社会人って、仕事人ではありません。

社会人って、仕事人ではありません。

丸山 剛

広告代理・制作、WEB制作・編集の会社を経営されている丸山さんにインタビューをしました。2度の転職やフリーターの経験がありながらも、プロボノとして多くの学生やNPOを応援さています。思い通りに行かない状況での過ごし方や、人生を選択していく中で重要なことをうかがいました。転職・起業・数々の人生のサポートから生まれた哲学は「「幸せ」というのは自分だけで作れるものではなく、周りもどうするのかって考えることです。」

高校時代 

Q. 高校時代から将来やりたい仕事は決まっていたんですか?

そうですね。中学生の時、沖縄へ一人旅をするために日本交通公社(現:JTB)に行き、窓口に何度も通いました。仕事をしている社会人に自分が初めてクライアントとして関わり、すごく便利で役に立つことなんだと思ったんです。「これが仕事なんだな」と思いました。これがきっかけで「仕事でこういうことをするんだな」というイメージが沸き、JTBで働くことが自分の目標になりました。大学も立教大学社会学部観光学科(現:観光学部)を最終的に目指していました。

Q. 進路を選択する際、どんなことを考えていましたか?

実は僕はピアノが好きで音楽も好きだったので、なんとなく作曲家になりたい、という思いもありました。でも、現実的ではなかったので、「今から始めても間に合わないし、単なる憧れなだけ」とあっさり諦められました。あとは旅行会社の仕事が海外とも繋がるので、英語は必要だなと思い、外国語学部を中心に調べたりはしていました。ただ、調べていくうちにJTBは外国語学部でなくても入れるということがわかってきて、英語は留学もしていたので自分自身で勉強できるんじゃないかとも思えてきました。ただ英語を勉強するのではなく、英語を使って何かを学びたいなという気持ちがあり、やはり「観光だ」と、観光学部を目指していました。

Q. 実際には、どうやって高校後の進路を決めましたか?誰かに相談しましたか?

受験自体は、色々と受けたんですが、初志貫徹じゃないですけれど立教の合格通知がきたときに、「立教に行こう」と思いました。立教に行く気満々で、キャンパスも池袋だったので、西武池袋線沿いに家を借りてやる気に満ちていたのですが、慶應の合格発表があったときに、親や先生から「JTBならどちらからでも入れるよ」と言われ。

加えて「できれば慶應に入って欲しい」と言われました。「まあお金を払うのは親だしな」と思い、すんなりと慶應に行こうと思いました。受験を振り返ると、自分の場合は「立教で観光のこういうことを勉強したい」という明確な目標があったので、努力することができ、それが自分の実力以上の慶應に受かるというようなことに繋がったのかなと思いました。

もし「慶應は偏差値が高いから」という理由で目指していたら、ここには受からなかったと思います。明確な目標を定めて、そこに向かって努力するということがパフォーマンスを上げる秘訣なのかなということを、ここでも学びました。

Q. 将来「こんな風に生きたい」というビジョンのようなものがあったということなのでしょうか?

そうですね。それこそ匂いがするくらいクリアなビジョンを持って、当時は勉強していました。

 

大学時代

 Q. 大学生活は、どのようなものでしたか?

慶應の文学部に進みました。しかし、学問に関しては特に勉強したい学問ではなかったため、「無関心」「無気力」「無情報」といったように完全に「無」でした。人間関係もよかったですし、いっぱい遊んで楽しかったですけど、勉強という意味ではあまり学校には行かず、行ってもゼミぐらいでした。

Q. 大学生時代を振り返ってみて、悩んだり不安に思うことはありましたか?

僕は、その場の状況を自分の良いように解釈していって、次に進んでいったような気がします。もともと行きたい場所ややりたいことではなくても、活路は見つかる感じです。なので、悩んだりということは意外となくて、「取捨選択・消去法」で選んでいるため、努力していない分諦めもつきました。

Q. 諦めですか。

例えばマラソンが走れなくて悔しいのがかっこ悪いように何もしていないのに後悔するのはむしろ恥ずかしいと思っていました。そもそも人は自分事でないと真剣になれないと分かり、興味関心を持って自分事にすることが重要だと気づきました。じゃないと本気になれないですしね。大学はあまり本気になれなかったんだと思います。

Q.「楽しくないな」という状況から、何か変えてみようですとか、考えたりはしましたか?

「楽しくないな」という時に、「いつ見切りをつけるか」も大事かなと思って、1年生の後期に法学部への転部を考えました。法学部って華やかなイメージで、社会から認められているような感じがしていました。だけど結局この動機もミーハーな感じで、「憧れ」なだけだったので行動には移せませんでした。

人間は結局憧れや羨ましいといった気持ちでは動けなく、JTBで働きたいと思ったときのように、自分の意思でのみ動ける気がします。「努力するために憧れを作る」のか「憧れがあるから努力するのか」…僕は自然発生的に好きなことを大切にすることが大事な気がします。

Q. もし、立教大学に行っていたら違いましたか?

授業にはきちんと出たと思いますが、それが正解だったかは分からないです。選択を一つ変えることで人生が変わるので想像はできませんよね。自分の人生はもちろん、他の人の人生も変わると思うんです。自分の人生でありながらも、相談をする側も、される側もそれなりの影響を受けるわけです。人間って生きているだけで、必ず他の人に影響を与えてしまいます。

もちろんただ生きているより、前に出て、社会に出て人と接することがあれば、より影響を与えていけると思います。

 

就職&転職&起業

Q. 卒業されてからはどうされましたか?

1995年に大学を卒業し、朝日新聞社に入社しました。入社した年がインターネット元年と言われる年で「アサヒ・コム」というニュースサイトを開設しました。そのため私自身の興味もインターネットに向かいました。

Q. 転職先ではイメージ通りな働き方ができましたか?

インターネットの時代が来ていたので、広告制作会社に最初は転職しましたが、「将来芽が出ない」と思い、インターネットのメディアレップに2度目の転職をしましたが、思っていた感じではなかったです。しかし、この頃はすでに2社をやめた経験から自分の中で「仕事」の定義ができるようになってきました。そのため、「違う」と思ったら早く次に進んだ方が良いのかなと思いました。

当時20代後半でしたし、「行動は早い方がいい」という思いが背中を押し、「自分が好きだな」と思うことをやるべきだと考え、やめました。

Q. そうして、また転職活動をなさったんですね?

その後は転職活動をせず、友達の会社で働くような感じで、1年間フリーターをしていました。30手前で、どんな仕事もそれなりにこなせていたので、そんなに不安もありませんでしたが、「いつか天職に出会いたい」と思っていました。

Q. フリーター時代は、どのような働き方をして、何を感じていらっしゃったんですか?

今まで経験のなかったプログラミングに手を出しました。プログラミングは、論理的思考力が勝負なのでトレーニングをすればいけると思いましたが。やってみた分かったことは自分は職人タイプではなく、人との「コミュニケーションが好きだと再確認する機会になりました。

Q. フリーターを経たあとは、どう過ごしていらっしゃったんですか?

「起業しようかな」と考え始めました。「起業をしよう」と意識し始めたことで、そのような情報が入ってくるようになりました。自分の興味というフィルターを通して色々な人との出会いも、偶然ではなく生まれるものだなと思いました。


Q. 素敵な出会いがあったんですか?

積極的に2社目の小さな会社の社長に会いに行きました。フリーターでしたが、以前の会社のつながりでお仕事をもらったりして1000万は売り上げていました。そこで、その社長に起業の話をしたら、「会社を作るか」となり、資金を援助していただきました。

Q. 起業した際は、どのような働き方でしたか?

仕事を断りたくなったので、「取材できる?」と聞かれたら堂々と「できます」と答えていました。実際に取材の経験はなかったのですが、人と会うこと、話をすること、文章を書くことも好きだし、「3つを組み合わせたらできる」と思っていました。これは漠然とした根拠のない自信ではなく、自分のできることから想像して「できる」と思いました。これが「想像力」だと思います。

Q. 想像力ですか。

1人でやることでウェブ制作の全体像が分かるようになっていきました。インタビューの長さや、編集の視点や、プログラム等トータルな視点を持つことができ、小さいながらも全体を俯瞰できるようになっていきました。想像力で補えるようになってきたんです。

Q. 色々な経験が活きているのですね。

独立してから、今まで辞めた会社に助けてもらっています。辞めた時には将来お世話になるとも思いませんでしたが、独立しても仕事をもらえるのはありがたいです。今まで関わった人と、これまでとは違った関係性で関われるのは有意義で、今まで同僚だった人とこれまでとは異なる形でサポートし合い、一緒に仕事をできるのは嬉しいです。同僚時代はあまり貢献出来ていなかったかもしれないけれど、外に出た今、何かしら貢献できることがあるのかもしれないなと思っています。

伝えたいこと

Q. 大学って、行った方が良いと思いますか?

「学び」という面では、どこにでもあるので何とも言えませんが、行ける環境ならば行った方がいいと思います。ただ、「みんなが行っている」とか焦りを感じていく場所ではない気がします。高校卒業後に選べる選択肢って狭いようで広いと思います。高卒で選ぶ職業と大卒で選ぶ職業って違いますよね。

例えば高校卒業して自動車の整備工になるケースがあったとして、それが楽しいかどうかはその人次第ですよね。でも、大学生の場合は楽しそうだったとしても選ばない仕事があると思うんです。工場で働いている人で幸せな人もたくさんいますが、大学に入ったからこの仕事は好ましくないと勝手にフィルターをかけ、オフィスでスーツで働くという選択肢が大多数を占めているように思います。

もちろん大卒だからこその職業もありますが、そういう意味では、高校生の方がありのままに選べる可能性があるので、大学生の方が職業選択の自由があるとは言えないと思います。仕事の何が尊いかはそれぞれの人が比較ではなく絶対的な価値観で決めることです。

Q. 進路を決める上で、大事なことってなんでしょう?

一番大事なことは「今いる環境をそのまま受け入れてみること」だと思います。なぜなら、受け入れてみないと始まらないんです。人生なんて思い通りにならないことだらけでしたが、それを「そういうもんだ」と受け入れて、その中でやれることがたくさんあることは実感してきました。

今の環境を受け入れてみること、それがその人の道筋だと思います。だた、右か左か選べるのであれば、その時の気持ちを大事に選ぶしかない。そして、選んだらその選択を受け入れる。環境は違えど、自分の選択を受け入れることで開けることがあると思います。

Q. 学生時代に、やりたいことが決まっていた方が良いと思いますか?

明確にノーです!「志」とか「やりたいこと」とか、世の中にどのように貢献できるかなんて働き出さないと分からないと思います。「大学時代の想像の中のありがとう」と「実際のお客様の生のありがとう」は全く違います。

自分がきちんとリアルな体験をすることで、本当の仕事が見えてきます。無理に想像したり、やりたくない就活のために資格を取ったりするのではなく、仕事と直結していなくても本当にやりたいことをやっていくべきだと思います。

Q. やりたいことってどうやって見つけるんでしょうか?

やりたいことがない場合は、それをみつけることから始めることになりますけれど、やりたいことを出発点にすると、自分の本当の考えを他の人と共有することで、他の人との違いに気づくことができるので、とても良いと思います。人の楽しいということに乗っかってみるのも大事かなとも思います。ゼロから見つけるより、人の感覚に頼ってみる。

違ったら違ったでそれが発見になりますしね。個性って、すぐ「人と違わないといけない」と思われがちですが、同じでも全然いいですよね。

Q. 今、社会人になって、人生は楽しいですか?

楽しいです。鏡みたいに自分に対して色々な反応が返ってくるからだと思います。

絶対的な価値判断で「楽しい」というのは自分の中で学生で終わっている感じがしていて、そういう意味では自分は「楽しさ」というより「喜び」を求めているのかもしれません。馬鹿な話をして騒ぐのは楽しいですが、喜びではない気がします。楽しさよりも喜びを日々実感したいと思います。

Q. 喜びとは、なんでしょうか?

相手に感謝されたり、したり、相手が必要で、相手がいないと感じられないもの、自分の仕事で人々に感謝されることができるのは喜びだと思います。「人の役に立ちたい」気持ちといいますか・・・。最近の若い子も人の役に立ちたいっていう人が多い気がします。今の時代は情報もすぐに手に入って、お金をかけずに楽しいことができて、時間をつぶせます。

なので、「若い子は楽しさには飢えていないけど、喜びに飢えているのかな」と思います。

Q. 学生時代の方が楽しかったですか?

その時その時の楽しみ方が変わるのが成長だと思います。成長とは何かを学んだ、知識を得たということだけではなく、自分の見方、考え方、価値観が変わることも成長だと思います。自分が変わり、それを実感し、過去と比較できるようになることも同様だと思います。でも、価値観が変わったのは40を過ぎてからですかね。

30代までは「楽しみ」を求めていた気がします。ただ、「楽しいですか?」という問いには「楽しいです」と答えられますが、「幸せですか?」と聞かれると「幸せ」だとは答えられないです。楽しさと幸せは違うと思っているんですよね。自分の関わっている人の範囲の中で、喜びや楽しみは感じられるのですが、幸せはもっと大きな概念だと思っています。

Q. 楽しさと幸せの違いですか。

「幸せ」というのは自分だけで作れるものではなく、周りもどうするのかって考えることです。何かがあって、それは楽しいし喜びもあるけれど、幸せなことではないかもしれないんです。

Q. 丸山さんにとっての、仕事ってなんですか?

自分を映し出して、自分を常に客観的に判断できる指標ですね。仕事を通して自分を自己分析をしているイメージです。なので、仕事がなかったら自分の価値を見出せない気もしているので、仕事は自分を認めるための材料なのかもしれません。自分が見つからなくなったときに、今までの仕事を振り返ると、そこに自分がみえてくるのかなとも思います。

Q. これから、何かこうしたい・こうなりたいということはありますか?

先ほどの「幸せ」の話が今後のビジョンでもあります。自分はボランティアやNPOではなく、本業で利益を上げてそれを使って何かに貢献していきたいです。自分の会社であげた利益を使うことで、自分達が受けてきた恩をまわせるようにしていきたいです。僕は大学生と関わることが多いのですが、「社会に出ることが楽しくなりました」というフレーズをゴールにしています。

社会人って、仕事人ではありません。社会のために役に立って、自分自身も楽しんでいるのが社会人だと思うんです。社会に出て、喜びを感じて満たされる未来があるということを伝えながら、そのために解決しなければならないこともある、夢も喜びもあるけどそれイコール幸せではないことを伝えていきたいです。

Q. そういったビジョンを持つきっかけなどがあったんですか?

社会の全体像みたいなのを見るようになってきたこともあるかもしれません。

会社だけではなく、外に出て人と会ったり、人と話したり、色々なことをしているうちに「ありがとう」といわれる機会を得て、そうするとまたそれを味わいたくなって…偽善者と呼ばれるかもしれませんが、結局何もやっていない人がそのように言うわけなので、気にしていないです。

Q. これから色々選択していく中で重要だと思うことはありますか?

「物事のベースとなるものが何か」を考えることが大事だと思います。「自分がしている行動がどんな風に人を苦しめているのかな」って考えてみて欲しいです。「人を笑顔にする仕事に付きたいです」という人は多いのですが、「人を悲しませないためにどのような生き方をするべきなのか」を考えるのも大切だと思います。

グローバルというのは地球の裏側を考えること、先進国、日本がどのような影響を与えているかを考えることだと思います。誰かを幸せにするっていうより、誰かを不幸せにしないって生き方をする。グローバルにつなげるためのローカル目線を持つ、そしてイノベーションに繋がる想像力を持つ。 それがどういうことなのかというのを是非、考えてみてください!

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